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大阪の新地の用語集|遊郭から今も残る言葉の意味と由来を解説

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大阪の新地の用語集|遊郭から今も残る言葉の意味と由来を解説

大阪の新地の用語集|遊郭から今も残る言葉の意味と由来を解説

「一見さん」「お茶を引く」「源氏名」——動画やニュースで大阪の新地の話題を見て、独特の言葉が気になった方へ。実はこれらの言葉、多くが江戸や上方(かみがた)の遊里(ゆうり)で生まれ、二百年以上たった今も、意味を保ったまま使われ続けています。

おもしろいのは、街そのものより言葉のほうが古いこと。この記事は、新地に生き残った「遊里由来の言葉」を集めた用語集です。扇情的にではなく、言語文化史として、よみがなと由来つきでやさしく整理します。

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読むより耳から入りたい方はこちらからどうぞ。移動中や家事をしながらでも楽しめます。


新地とは?「新しい土地」がお茶屋の街を指すようになった理由

新地という言葉の図解。江戸時代に新しく造成された土地を指す言葉が、大阪では遊びの街の意味を帯び、飛田新地は1918年生まれの計画的な遊郭だったことを示す
飛田新地は「江戸から続く古い遊郭」ではありません——大正生まれです。

新地とは、もともと江戸時代に新しく開発・造成された土地を指した言葉でした。それがなぜ、「遊びの街」の代名詞になったのでしょう。

大坂(現在の大阪)では、川の埋め立てなどで生まれた新開地に、にぎわい作りとしてお茶屋や遊びの場が置かれることが多くありました。曾根崎新地(北新地)のように、地名として今も残る例も少なくありません。

こうして大阪では、「新地」という言葉そのものに「遊びの街」という意味が染みついていったのです。

その代表格が、飛田新地です。ただし実は、江戸から続く古い遊郭ではありません。仮開業は1918年(大正7年)。当時としては新しく、計画的に造られた遊郭でした。戦後は赤線となり、いまは「料亭」が並ぶ街として続いています。

この「遊郭→赤線→現代」という一本の流れは、赤線の記事で詳しく追いました。おもしろいのはここです。街は大正生まれなのに、そこで使われる言葉の一部は、江戸や上方の遊里まで遡るのです。建物や制度が姿を変えても、言葉だけは驚くほど変わらずに残っている。今回はその「言葉」で、同じ一本の線をたどってみます。


夢野カナエ
夢野カナエ
私の経験でも、業界が未経験の子には「玄関に慣れていないなら、おばちゃんやお姉さんにライトやメイクの調整を相談してみたら?」なんて話をします。何気ない会話なのに、独特の雰囲気がありますよね。お店の中にも、こういう言葉がたくさんあるんです。

まずは、いちばん分かりやすい「客の呼び名」から見ていきましょう。

客の呼び名は江戸のまま|「一見さん・裏壁さん・馴染みさん」の三段階

客の呼び名の三段階対応図解。現代の新地の一見さん・裏壁さん・馴染みさんと、江戸吉原の初会・裏を返す・馴染みがほぼ対応することを示す
二百年前の顧客管理の骨格が、呼び名を変えて生きています。

この記事でいちばん伝えたいのが、客の呼び名です。現代の新地では、初めてのお客さんを「一見さん」、2回目のリピート客を「裏壁さん」、3回以上の常連を「馴染みさん」と呼ぶと言われます。一方、江戸の吉原では、初めての登楼を「初会(しょかい)」、2回目に同じ遊女を訪ねることを「裏を返す」、3回目でようやく「馴染み」と認められました。並べてみましょう。

段階 現代の新地 江戸の吉原 意味
1回目 一見さん 初会(しょかい) 初めてのお客。「一見客」は特に上方の遊里で初会の客を指した言葉
2回目 裏壁さん 裏を返す 同じ相手をもう一度訪ねること。「裏」の一字が共通
3回目〜 馴染みさん 馴染み ようやく常連と認められる。言葉も段階もほぼそのまま

「裏壁さん」の「裏」は、吉原の「裏を返す」の「裏」につながる——というのが有力な見立てです。その別名が「裏壁(うらかべ)返す」。壁は表を塗ったあと、裏側からも土を塗って仕上げます。そこから、一度目を表、二度目を裏に見立てた——という説明が、すでに1768年の随筆に記されています。二度目の来店を「壁の裏塗り」にたとえる感覚が、二百年以上も生き延びているわけです。

ただし、「必ず三回目で馴染み」という固定ルールがあったわけではありません。吉原でも、初回でいきなり馴染みになる「初会馴染(しょかいなじみ)」も、二回目で馴染み待遇の「裏馴染(うらなじみ)」もありました。例外は、いつの時代もあるものです。花魁の記事でも触れたとおり、三段階は基本形であって、例外のない規則ではないのです。

それでも「初めて・再訪・常連を区別する」——この顧客管理の骨格は、呼び名を変えながら現代まで受け継がれています。また「一見さん」は、京都のお茶屋の「一見さんお断り」のように、上方の花街文化圏で広く共有されてきた言葉。一度きりの客より、時間をかけて信頼を育てる——その価値観ごと、言葉が運ばれてきたのでしょう。


夢野カナエ
夢野カナエ
「一見さん」だけでなく「元(はじめ)さん」という呼び方もあります。地域やお店によって、言葉は微妙に違うんです。

呼ばれる側、つまり働く人の言葉はどうでしょうか。

働く人の言葉|「源氏名」も「お茶を引く」も遊里から来ている

裏を返すの語源図解。壁は表を塗ったあと裏からも塗って仕上げることから、一度目を表、二度目を裏に見立てた説が1768年の随筆に記されていることを示す
二度目の来店を「壁の裏塗り」にたとえる感覚が、二百年以上生きています。

働く人の側の言葉にも、遊里が息づいています。お店で使う呼び名「源氏名(げんじな)」は、実は最初から遊女の名前だったわけではありません。

もとは『源氏物語』五十四帖の巻名にちなんで、宮中の女官や大名家の奥女中に付けられた称号でした。それがのちに遊女や娼妓の呼び名となり、やがて『源氏物語』と無関係な名前まで含めて「仕事上の別名」全般を指すようになります。

宮中の雅な命名文化が遊里へ移り、そこで本名を隠す機能も帯びていった——花魁の記事の「高尾」「夕霧」のような名跡も、その流れの中にあるのです。いまも夜の世界全体で、「源氏名」という言葉ごと使われ続けています。名を替え、言葉まで替えて別人を生きる——その仕組みは、花魁道中の装いや、大奥の役職名にも通じるものがあります。

玄関先でお客さんの案内やサポートをする年配の女性は、新地では親しみを込めて「おばちゃん」と呼ばれます。

しばしば重ねて語られるのが、遊郭で遊女や禿(かむろ)の監督、勤務状況の確認、貸借の勘定、客との仲介、規律や処罰まで担った権限の大きな役職「遣手(やりて)」です。

働いていた女性がそのまま年齢を重ねて、おばちゃんになることもあります。お店は今の風俗店のような「出勤する場所」というより、寝泊まりもする家に近い場所。だから、ビジネスパートナーというより家族に近い感覚なのです。

ただし、現代のおばちゃんをそのまま「遣手の生き残り」と言い切るのは正確ではありません。遣手ほどの権限があるわけではないからです。客と働き手のあいだを取り持つ、という仕事の骨格が似ている——そう捉えるのがよいでしょう。時代劇に出てくる、あの世話役の女性を思い浮かべると、イメージが近づきます。

そして「お茶を引く」。お客がつかず暇なことを指すこの言葉は、手の空いた遊女や芸者が、茶臼(ちゃうす)でお茶の葉を挽く仕事をさせられたことに由来すると辞書に記されています(1684年『好色二代男』にも用例)。

今も夜のお仕事の世界で現役の言葉ですし、水商売を離れて使う人もいるほど定着しました。人気が客数で可視化され、暇であること自体が評価の低下につながった——由来を知ると、少し切なさも感じる言葉です。


夢野カナエ
夢野カナエ
源氏名の付け方は、ドラマだとすごくかっこよく描かれますよね。実際は「何にする?」「覚えやすいし、これでいっか」くらいで決まってしまうこともあります。複数のお店に在籍したり、転々とする子も多いので、江戸時代のようなドラマティックな話は、ほとんどありません。

人の言葉の次は、街そのものに刻まれた言葉です。

街の構造の言葉|「大門」も「嘆きの壁」も囲い込みの記憶

言葉は、街の造りにも刻まれています。吉原の唯一の出入り口が「大門(おおもん)」だったことは花魁の記事で紹介しました。

飛田新地にも「大門」の名を冠した通りと町名が今も残っています。出入り口を一つに絞って人を管理する遊郭の構造が、地名として現代の地図に生きているのです。

女性が通りに面した「玄関」に座り、道行く人を迎えるスタイルは、遊郭の「張見世(はりみせ)」——格子の内側に遊女が並び、客が外から見て選ぶ仕組み——を思わせます。

ただし、ここは一直線につながってはいません。

1930年刊の『全国遊廓案内』は、当時の飛田について、遊女を店先に並べる張見世ではなく、掲示した写真を見て選ぶ「写真店(しゃしんみせ)」方式だったと記しているのです。

つまり〈江戸の張見世 → 大正・昭和初期の写真展示 → 現代の開かれた玄関〉というように、見せ方は直線的に受け継がれたのではなく、一度姿を変えたあと、よく似た形へ戻ったとも読めます。

歴史は一本の線というより、ときどき輪を描くのです。

また、旧飛田の外周に残る高い塀は「嘆きの壁」と呼ばれます。ただしこれは遊郭時代の正式名称ではなく、後世に付けられた通称のようです。

遊女の逃亡防止や、内と外の視線・移動を区切る目的の塀だったと伝えられますが、いつ・誰が・どの範囲を築いたのかには不明な点も残ります。それでも、吉原を囲んだ「おはぐろどぶ」の堀と同じ、「囲い込む」構造の記憶であることは確かです。

華やかな言葉の隣に、自由を奪った仕組みの言葉もある——シリーズでずっと見てきた、光と影がここにもあります。

なお、大正期の妓楼建築「百番」(鯛よし百番)は、いまは料理店として使われながら国の登録有形文化財になっており、その名が「百番通り」という通りの名にもなっています。

建物・地名・言葉の三点セットで、歴史が保存されている珍しい例です。


夢野カナエ
夢野カナエ
女性を選ぶときの見せ方は、写真からホームページのパネル、スマートフォンでの自撮り、動画へと、いろいろに形を変えてきました。技術が進むにつれて、ソフトやアプリ、AIの加工とこの先も発展していくのでしょう。それでも、実際のサービスは人と人であることは忘れないようにしたいですね。

街の造りの言葉の隣には、もう一つ、建前が生んだ言葉があります。

建前の言葉|「料亭」と「料理組合」に刻まれた赤線の記憶

料亭・料理組合という呼び名に残る歴史の図解。戦後のGHQによる公娼制度廃止のあと特殊飲食店の枠組みに姿を変えた業態転換の記憶が言葉に刻まれていることを示す
決めつけないことも大切——元妓楼建築の「鯛よし百番」は、いま本物の料理店であり文化財です。

料亭」に「料理組合」。新地のお店と組合のこの呼び名にも、言葉の歴史が刻まれています。赤線の記事で見たとおり、戦後のGHQによる公娼制度の廃止指令のあと、お店は「特殊飲食店」という飲食店の枠組みに姿を変えて続きました。

「料亭」「料理組合」という呼び名には、その戦後の業態転換の記憶がそのまま刻まれているのです。

大切なのは、個々のお店の営業実態を一律に決めつけないこと。あくまで「言葉に残った歴史」として見るのが、この記事の立場です。

実際、元妓楼建築の「鯛よし百番」は、いま本物の料理店として営業しながら国の登録有形文化財になっています——「料亭」の一語だけで、すべてを同じ建前と括ることはできません。

この街では、建前の言葉まで含めて、まるごとが歴史の資料になっている。呼び名一つに、法律と現実のあいだで揺れてきた時代の事情がにじんでいる——言葉の考古学の、いちばん面白いところです。


夢野カナエ
夢野カナエ
初めて新地に来られるお客さんは、びっくりするかと思います。料理組合の入り口の看板がありいくつかの通りが碁盤目状になって店名が料理店のそれっぽく並んでいます。
でも通ると、若い女性がお店で座っているので、お客さんによっては「異世界の雰囲気でくらくらした」という言葉もありました。

ここまでに出てきた言葉を、あとから引けるように並べておきます。

新地の用語辞典|遊郭由来の14語(五十音順・由来つき)

ここからは辞書パートです。現代の新地で使われる言葉のうち、遊郭・花街に由来をたどれるものを五十音順にまとめました。ブックマークして、辞書がわりにお使いください(由来には諸説があるものも含みます)。

一見さん裏壁さん大門お茶を引くおばちゃん口開け玄関源氏名新地嘆きの壁馴染みさんひやかし百番料亭

一見さん(いちげんさん)
初めて来店するお客のこと。「一見客」は特に上方の遊里で初会の客を指した言葉で、十八世紀初めの用例が残る。京都のお茶屋の「一見さんお断り」に代表される花街文化圏の共通語で、初対面の客をすぐには深く迎えない「信頼を段階で育てる」価値観とセットで受け継がれた。
裏壁さん(うらかべさん)
2回目に来店したリピート客のこと。吉原で2回目の登楼を指した「裏を返す」、別名「裏壁(うらかべ)返す」の「裏」につながると考えられる。壁を表・裏と塗り分ける左官仕事に一度目・二度目を見立てた語で、1768年の随筆にも記される。一度目「一見さん」、二度目「裏壁さん」、常連「馴染みさん」の区別は、現在の業界向け用語集に見える用例(店や人による違いあり)。
大門(おおもん・だいもん)
遊郭の唯一の出入り口だった門。吉原の「大門(おおもん)」が有名で、飛田新地にも「大門」を冠した通り・町名が残る。出入り口を一つに絞って人を管理した、遊郭の構造を伝える地名。
お茶を引く(おちゃをひく)
お客がつかず暇なこと。手の空いた遊女や芸者が、茶臼(ちゃうす)で茶を挽く仕事をさせられたことに由来すると辞書に記される(1684年『好色二代男』に用例)。現代の夜のお仕事全般で現役の言葉。人気が客数で可視化され、暇なこと自体が評価の低下につながった、という少し切ない背景もある。
おばちゃん
玄関先で客の案内や店のサポートを担う年配の女性スタッフの呼び名。遊郭で監督・勘定・仲介・規律まで担った権限の大きい「遣手(やりて)」と、客と働き手を取り持つ仕事の骨格が似る。ただし遣手そのものの生き残りとまでは言えない。
口開け(くちあけ)
出勤後、その日最初の客を迎えること。商いはじめを意味する古い商家・花街の言葉で、縁起をかつぐ感覚とともに使われ続けている。
玄関(げんかん)
通りに面して開かれた、女性が座る店先のスペース。遊郭で格子越しに姿を見せた「張見世(はりみせ)」を思わせるが、1930年『全国遊廓案内』は当時の飛田を写真で選ぶ「写真店」方式と記す。張見世→写真展示→開かれた玄関、と一度姿を変えて似た形へ戻ったとも読める。
源氏名(げんじな)
お店で使う仕事上の呼び名。もとは『源氏物語』の巻名にちなみ宮中の女官へ付けた称号で、のちに大名家の奥女中、さらに遊女・娼妓・芸者、現代の接客業の名へと広がった。「高尾」など巻名と無関係な名も後に源氏名に含まれる。本名を隠す機能は遊里に移ってから帯びたもの。
新地(しんち)
もとは江戸時代の新開地を指す言葉。大阪では新しい土地のにぎわい作りとして遊びの場が置かれたことから、「お茶屋・遊所のある街」の意味が定着した。
嘆きの壁(なげきのかべ)
旧飛田の外周に残る高塀の通称。遊郭時代の正式名称ではなく後世に付けられた呼び名とみられる。逃亡防止や内外の遮蔽が目的と伝えられるが、建設者・時期には不明な点も。吉原の堀と同じ「囲い込む」構造の記憶を伝える言葉。
馴染みさん(なじみさん)
3回以上通う常連客。吉原で3回目にしてようやく認められた「馴染み」がそのまま残った言葉。段階を踏んで信頼を築く作法ごと、二百年受け継がれている。
ひやかし
買う気がなく見物だけの客。張見世の遊女を見て歩くだけで登楼しない人を指し、1789年の洒落本に用例がある。浅草紙を漉き返す職人が、古紙の原料を水に浸している待ち時間に吉原を見物した、という説が『嬉遊笑覧』(1830)にも見える有名な語源説(唯一確定の語源ではなく諸説あり)。いまや日本語の日常語。
百番(ひゃくばん)
大正期の妓楼建築「鯛よし百番」のこと。現在は料理店として使われ、国の登録有形文化財。「百番通り」という通り名にもなり、建物・地名・言葉の三点で歴史を保存している。
料亭(りょうてい)・料理組合
新地の店と組合の呼び名。戦後、公娼制度の廃止後に「特殊飲食店」の枠組みで営業が続いた歴史(赤線)が、呼び名に残ったもの。名称に業態転換の記憶が刻まれた例。個々の店の実態を一律に決めつけず、あくまで言葉の歴史として扱う。


夢野カナエ
夢野カナエ
先輩のことは「お姉さん」と呼んで、一緒にご飯に行ったり。家族のような関係になれるかどうかが大事です。なんせ、横に並んで玄関に座りますからね。ここが、今どきの風俗店との大きな違いです。

これだけの言葉が、なぜ二百年も生き延びたのでしょうか。

現代の「ひやかし」は、スマートフォンの普及でSNSやLINEに舞台を移し、ずいぶん時間を取られるようになりました。スマートフォンを何台かに分けて、実際に来てくれるお客さんとはしっかりやり取りし、それ以外はスタッフが対応することもあります。
チャット、SNS、LINEなど連絡ツールが自由に広がっていますが、その分時間を取られる女の子は大変です。ひやかしは厳禁です!嫌われないように気を付けましょう!

なぜ言葉は生き残るのか|建物より長生きする「生きた化石」

日常語になった遊郭由来の言葉の図解。お茶を引く(1684年の文献に用例)、ひやかし(紙漉きの待ち時間の見物という説・1830年頃の随筆)、一見さんお断りなどの由来カード
何気ないその一言、二百年前の街の生まれかもしれません。

建物は建て替えられ、制度は法律で変わります。それなのに、なぜ言葉だけがこれほど残るのでしょうか。言葉は、道具の中でいちばん壊れにくいからです。たとえるなら、実家の台所の炊飯器。何代買い替えても、家族の「ごはんだよ」という掛け声は変わりません。器は替わっても、営みと一緒に使われ続ける言葉は残る——新地の言葉は、江戸から続く営みの「生きた化石」なのです。

夢野カナエ
夢野カナエ
以前、たくさんの男性の本音に触れるお仕事をしていた頃、私のまわりにも独特の言い回しがたくさんありました。ああいう言葉の中に、二百年前から続くものがあった——そう知ると、言葉って、そこで生きた人たちの記憶の器なんだなって思うんです。

そして言葉は、街の外へも旅していきます。

だからこの記事は、言葉を面白がるだけでは終わりたくありません。「お茶を引く」の裏には手持ちぶさたの遊女の姿が、「嘆きの壁」の裏には自由を奪われた人たちの現実がありました。言葉の由来を知ることは、それを生きた人たちの記憶に、そっと触れることでもあるのです。


現在、そして未来へ|街は変わっても「言葉」は日本語の中を旅する

遊郭由来の言葉が街の外へ広がる伝播図解。廓の言葉が居酒屋の会話、オフィスの雑談、SNSへと旅して、場所が消えても言葉は生き続けることを示す
場所が消えても、言葉は日本語の中で生き続けます。

街としての新地は、再開発や時代の変化とともに、姿を変えていくでしょう。言葉は、別です。「一見さん」も「お茶を引く」も「ひやかし」も、とっくに街の外へ出て、居酒屋の会話やオフィスの雑談、SNSの中で使われています。場所が消えても、言葉は日本語の中で生き続ける。二百年後の人たちも、由来を知らないまま、これらの言葉を使っているかもしれません。

そして、あなたはもう「由来を知っている側」になりました。言葉が使われている“現在”のほうは、性風俗の種類風俗初心者向けの解説にまとめてあります。明日、誰かが「ひやかしはやめてよ」と言ったら、紙すき職人の待ち時間の散歩を、少しだけ思い出してみてください。花魁・遊郭赤線の記事とあわせて読むと、この用語集の言葉たちが、一本の歴史の上に立っているのがよく見えるはずです。同じ江戸を別の角度から見る春画夜這い男色混浴の歴史、そして性教育の歴史も、同じシリーズです。


夢野カナエ
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昔の性風俗の業界用語が、今では普通のオフィスでも使われている。それだけ大衆に大きな影響力を持っていた、ということなのでしょうね。

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遊郭や遊里の世界で、いちばん心に残るのは?*

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新地の言葉のよくある質問(FAQ)

一見さんとはどういう意味ですか?

初めて来店するお客のことです。京都のお茶屋の「一見さんお断り」に代表される花街文化圏の共通語で、吉原の「初会」に対応します。信頼を段階で育てる価値観とともに受け継がれた言葉です。

裏壁さんの「裏」とは何ですか?

2回目のリピート客を指す呼び名で、吉原で2回目の登楼を意味した「裏を返す」(別名・壁を表裏塗る左官仕事に見立てた「裏壁返す」)の「裏」につながると考えられます。常連は「馴染みさん」ですが、初回で馴染みになる例などもあり、三段階は固定ルールではありません。

「お茶を引く」の由来は何ですか?

お客がつかず暇なことを指す言葉で、手の空いた遊女がお茶の葉を臼で挽く仕事をさせられたことに由来すると言われます。今も夜のお仕事の世界で現役の言葉です。

「ひやかし」はなぜ遊郭が語源なのですか?

浅草紙を漉き返す職人が、古紙の原料を水に浸している待ち時間に吉原を見物して回ったことが語源という説が『嬉遊笑覧』(1830)にも見えます(唯一確定の語源ではなく諸説あります)。買う気のない見物客を指す言葉として日常語になりました。

新地とはそもそもどういう意味ですか?

もとは江戸時代に新しく開発された土地(新開地)を指す言葉です。大阪では新開地ににぎわい作りとして遊びの場が置かれたことから、「お茶屋・遊所のある街」という意味が定着しました。


▶ シリーズの動画版が始まりました(40分20秒)

第1話「花魁と遊郭の世界」。ソクルとテクルの会話に、当時の情景イラストと図解を重ねてたどります。

夢野アートについて:「快感を科学する」をテーマに、性の悩みや心地よさを、科学と実体験の両面からやさしく伝えるメディアです。この記事は元風俗嬢の夢野カナエの視点を交えつつ、歴史・語源については公開されている史料・研究をもとに構成しています。カナエの語りは共感のためのものであり、言語学・歴史学の学術的見解ではありません。

参考文献と史料

色道大鏡(藤本箕山・17世紀)
初会・裏・馴染みをはじめとする遊里の作法・言葉を伝える評判記 — 国立国会図書館サーチ

江戸人の性(氏家幹人・2013・草思社)
遊廓遊びの作法・言葉を含む江戸期の性風俗を史料で解説する通史的専門書 — 国立国会図書館サーチ

全国遊廓案内(日本遊覧社・1930)
当時の飛田を「写真店」方式(女性の写真を掲示して選ぶ)と記す同時代の案内書。張見世が行われていなかったことの典拠 — 国立国会図書館デジタルコレクション(※利用案内として書かれた資料で、働いた女性の立場・強制性を十分に伝えるものではない点に留意)

現代の新地で使われる言葉(一見さん・裏壁さん・馴染みさん・おばちゃん等)の現状は、公開されている街の紹介・用語解説を参照し、本文の記述はそのうち遊郭・花街に由来をたどれる語に絞って、歴史側の史料と照合のうえ独自に構成しています。語源には諸説があり、「〜と言われます」の伝聞表現に留めています。

免責事項: 本記事は言葉の歴史・文化の解説を目的とした情報提供であり、特定の地域・店舗の利用を勧誘・案内する意図はありません。営業の仕組みや利用方法には触れていません。売買春は売春防止法により禁止されています。語源・史実には諸説があります。本サイトは18歳以上の方を対象にしています。

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この記事を書いた人

夢野アート元風俗嬢夢野カナエ
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